栄養満点で私たちの食卓に欠かせない「たまご」は、毎日のお料理の一品としてはもちろん、お菓子作りにもなくてはならない食材です。
とくに主婦の方のなかには、ご家庭でたっぷりのたまごを使ってスイーツ作るという方も多いのではないでしょうか。プリン、マフィン、クッキー…と、たまごをふんだんに使ったスイーツはたくさんありますが、「スポンジケーキ」や「シフォンケーキ」などを作るとき、完成度の決め手となるのが、卵白を使って作る【メレンゲ】です。
ケーキをスポンジから作ったことのある人なら一度は感じたことがあると思うのですが、メレンゲの泡立て方によって、焼きあがりのスポンジのふわふわとした質感や食感がガラリと変わってきます。
この、単に卵白をハンドミキサーで泡立てるだけの、シンプルで簡単にできそうなメレンゲ作りですが…
「頑張ってあわ立てたのに思ったように泡立たなかった」
「水と泡に分離してしまった」
というような、失敗談も意外と多いようです。
ここでふとした疑問が…。そもそもなぜ、卵白は泡立つのでしょうか?(黄身は卵黄のように泡立たないのに…)。そこで今回は、知っているようで知らない卵白が泡立つ理由や役割など、自家製スイーツの成功のカギを握る卵白の秘密に迫っていきたいと思います。
今さらですが…卵白とは?
当たり前過ぎてあらためてお伝えすることでもありませんが、【卵白】とはたまごの殻を割って、黄身と白身に分かれたときの、黄身以外の透明な部分のことを言います。
たまごの大きさにもよりますが、重さの割合は殻が約10%、卵黄が約30%、卵白は約60%くらいだと言われており、たまごの重さの半分以上を卵白が占めています。さらに卵白の90%近くは水分であり、残りの成分は主にタンパク質からできているのです。
たまごに含まれるタンパク質は卵黄と卵白それぞれに、違う性質を持っているので、その性質を最大限に生かすために、使う料理のメニューによっては別々に分けて調理することも多いですよね。
以前のたまごコラム「たまごの卵黄と卵白、栄養があるのはどちら?」でも、「卵黄と卵白の栄養価」についてご紹介しましたが、栄養面だけで比べるならば、ビタミンB・A・Dやコリンなどが豊富に含まれている卵黄の方が、卵白よりもやや栄養価が高いです。
だからといって「卵白には全く栄養がない」というわけではありません!卵白には良質なタンパク質やビタミンB群が含まれていますし、さらにカロリーが低くてヘルシーと魅力もしっかりあります。
卵白が泡立つ理由
お菓子作りなどでメレンゲを作るとき、空気を混ぜながら卵白を泡立て器で撹拌(かくはん)すると、粗い泡がだんだん細かくなり、ツヤのある気泡に変わってくのはなぜなのでしょうか?
その秘密は卵白がもつ「タンパク質」に隠されています。
卵白に限らず、物質を泡立てるためには空気を取り込まなくてはいけません。そしてその空気を取り込むためには「表面張力(ひょうめんちょうりょく)」を小さくすることが必要です。
「表面張力」とは、物質が表面をできるだけ小さくしようとする性質のことですが、例えばこの表面張力が大きい「水」は空気と接しにくく、空気をたくさん抱え込むことができないため泡立ちにくい、というわけです。
ところが、卵白には表面張力を小さくするタンパク質が含まれているので、たくさんの気泡を取り込むことができます。さらに卵白のタンパク質は、このように空気を抱え込むことで泡立つ「起泡性」という性質と、さらにそれを保ち続ける安定性を兼ね備えているため、空気を含ませながら混ぜることで、ふわふわのメレンゲを作り出すことができるのです。
卵黄はどんなに撹拌しても卵白のようには泡立たない
一方、卵黄に含まれているタンパク質は、卵白に含まれているものとは種類が違うので、卵黄を撹拌しても卵白のような泡立ちを見せることはありません。
卵黄は卵白のようには泡立ちませんが、油脂が含まれていて、水と油を結びつける乳化剤のような役割があります。この乳化作用があるおかげで、お菓子作りではたまごの成分や材料が均一に分散されて、生地に混ざりやすくなる、という働きをしてくれます。
油脂が含まれているからこそ濃厚でコクのある、なめらかな口あたりも卵黄ならではの味わいなんですね。
卵白と卵黄は別々に泡立てることでそれぞれの役割が引き立ちます
お菓子作り経験者なら、卵白を使ってメレンゲを作るレシピなどで「泡立ての前に、ボウルに水や油が残っていないか確認しましょう」というフレーズを目にしたことがありませんか?
実際に油分がボウルに残っていると、とても泡立ちが悪くなります。これは、油脂が卵白の気泡であるタンパク質の膜を壊す作用を持っているからなのです。
バターやサラダ油に含まれている動物性・植物性の油脂ほどではありませんが、卵黄に含まれている油脂も、気泡を邪魔してしまう成分があります。
ですからメレンゲを作りたいときや、卵黄と卵白を分けて泡立てる「別立て」を行う場合は、黄身と白身をキレイに分けて、卵白のなかに卵黄が入ってしまわないように注意しましょう。
もちろんお菓子にはそれぞれ特性があるので、その特徴を引き出すだめにも、たまごの泡立て方を使いわけることも必要です。弾力が少なく、口どけがいい仕上がりにするために、全卵を泡立てる「共立て」が向いているお菓子もあるので、それぞれの焼き上がりの特徴を活かすように、使い分けてみてくださいね。
卵白をつかった「メレンゲ」はなぜあんなに弾力のある気泡になるのか
卵白をミキサーで泡立てたメレンゲは、みるみるうちにホイップクリームみたいに膨らみ、持ち上げても落ちないほどのしっかりとした弾力のある泡になりますが、なぜメレンゲの泡は石鹸の泡のようにすぐしぼんでしまわないのでしょうか?
先述のとおり、卵白には空気を含んで泡立つ【起泡性】と、それを持続させる安定性がありますが、この安定は卵白が持つタンパク質の【空気変性】によって保たれています。
【空気変性】とは「空気に触れることで変質を起こすこと」ですが、卵白のなかに含まれるタンパク質「オボアルブミン」という成分は、空気に触れると膜状に固くなる性質があります。
つまり泡立て器で撹拌して取り込んだ空気によって、このタンパク質が変性することで、気泡が安定するので、ツノが立つほどしっかりとしたメレンゲになっていくのです。ただし泡立てすぎるとタンパク質の変性が過剰になって、卵白と水分が分離してしまうので、分離する前のちょうどいい状態を見極める力も大切ですね。
卵白の泡立ちを助けてくれるのが「砂糖」
メレンゲ作りに欠かせない、もうひとつの材料といえば砂糖ですが、実は砂糖を入れるのは「甘さを足すため」だけではありません。
砂糖は水分を引き付ける力が強いため、卵白の水分を吸着し、気泡を安定させてくれる働きがあります。さらに保湿性にも優れているので、キメ細かでしっとりしたメレンゲに仕上げてくれるのです。
ただし、気泡を安定させる作用があると同時に、砂糖には卵白が「空気変性」を起こして膜状に固まることを抑える働きもあります。このため、しっかりと泡立てる前に砂糖を加えてしまうと、卵白が固まりづらくなる、という困った状況も起こってしまいます。
そうならないためにも、手動で泡立てる場合は、まずは卵白のみで泡立てて、ある程度空気が含まれたところで、何回かに分けて少しずつ砂糖を加えていくことで、きめ細やかな安定したメレンゲを作ることができます。
一方、ハンドミキサーで行う場合は手動よりも撹拌のスピードが早く、タンパク質の変性が進みやすいので、泡立て過剰にならないためにも、最初から少量の砂糖を加えていた方が失敗が少ないようです。
卵白を泡立てる時は「新鮮なたまご」のほうがいい
上記では、なぜ卵白は泡立つのか?その理由をご紹介してきましたが、実はたまごの「鮮度」は泡立ち方にも大きく影響します。
古いたまごは、新しいたまごに比べて粘性が低く、表面張力が小さいために泡立ちが良いのですが、その反面、泡の安定性はよくありません。逆に、新しいたまごはコシが強く、泡立てるのに時間がかかりますが、一度気泡ができてしまえば、その安定性はとても良いんです。
もし安定したふわふわのメレンゲを作りたいのであれば、やっぱり新鮮なたまごを使ったほうが良さそうです。
たまごの温度にも注意しましょう
またたまごは低い温度では泡の安定性が高くなり、高い温度だと起泡性が増して泡立ちやすくなるという特徴も持っています。
ですからメレンゲ作りをするときは、新鮮なたまごを使って、はじめは湯せんで温度を高くしながらかき混ぜて、途中から冷やして泡の安定度させる、という方法が一番効率的で失敗が少ないと言えそうです。
卵白の性質を理解してお菓子づくりをより楽しもう
今回は、私ども藤野屋が「たまご屋」としての知識を踏まえ、スポンジケーキやシフォンケーキなどのお菓子作りに欠かせない卵白について、ご紹介していきました。普段何気なくかき混ぜていた卵白が、なぜあのように泡立っていたのか、卵白の性質や特徴もおわかりいただけたのではないでしょうか。
メレンゲの泡立ては、お菓子作りの基本といわれていますが意外と難しく、ここがうまくいかないことで、スイーツ作りに苦手意識を持ってしまう人も多いようです。
こうして卵白の働きや役割を知ることで、失敗した原因もつかみやすく、今後の成功率もあがるかもしれませんね!ぜひ新鮮なたまごを使って、ワンランク上のスイーツ作りを楽しんでみてください。